あの奇跡の優勝から3年。
センセーショナルな結果の陰にあった地道なトレーニングは、一躍脚光を浴び、いまや陸上界で有名なメソッドへと昇華していった。
しかし、その方法論が広まれば広まるほど、本質は伝わりにくくなっていく。
そこで、BCT考案者の原健介氏は全国各地を回り、講習会・セミナーを開くようになった。
小学生、市民ランナー、実業団選手、部活指導者… 様々な人たちと触れるなかでさらに磨かれてきた、BCTの真髄に迫る。
DVDや書籍が発売されて、おかげさまで「BCTやってます!」という人が増えました。SNSでメッセージをもらったり、大会の会場で声をかけてもらったり、明らかに以前とは違う反応があります。今でもブログやFacebookを更新するとたくさんの人が見てくれていますし、それはとってもありがたいと思っています。講習会をやるようになってからも、たくさんの人が本を見てくれていますし、BCTに対して興味を持ってくれているなと感じます。
そうですね、皆さん「正しいフォームで」っていうことを意識をしてくれていると思います。ただ、いざトレーニングをやってみると大事なところができていないことが多いですね。たとえばドローインのやり方が違っていたり、難しい種目をこなそうとして無理な力が入ってしまったり。ここはこうですよ、ってアドバイスをすると大体の人が「いやぁ間違って認識してました」ってなるんです。そういった意味では講習会をやるようになって、僕も問題点が見えるようになったと思います。洗練されてきたというか、キューイングの仕方ひとつで選手は全然違う反応を見せるんだなって。
キューイング、いわゆる言葉がけでの誘導ですね。同じランジの指導でも、足をどう、膝をこうと言うよりも「ヘソを常に前に向けて」と声をかけるだけで、選手はバランスよくできる場合があります。僕はこのキューイングが指導の根幹だと思っていて、BCTの講習会でも非常に大切にしています。単にトレーニングの方法だけを教えられても、選手はキツかったとしか思わないでしょう。でも「あ、こうすればいいんだ」っていう感覚があると楽しくなるじゃないですか。
とにかく、終わったときに目の色が変わっているようになってもらいたいんです。「走りたい」とか「練習がしたい」ってみんなが思えるようにしたい。それには選手が“気づく”ことが必要です。これまでは知らなかったこと、気がつかなかったことに導いてあげると、みるみるみんなの体が動いてきます。なにも新しいことなんてひとつも言っていないのに、「なるほど!」ってなっちゃう。こちらとしては「でしょ!?」って感じですよね。
よく「体幹が大事だ」っていうのもそう。じゃあ体幹ってどこ?大事なのはどこの部分?って選手に聞いてみると、ほとんど明確に答えられません。胴体部分とか腹筋周りとか、知識としては知っていても、どういうのが理想なのかというイメージがない。ひとつの部位に意識が偏るとよくないこともありますが、漠然とやっていたら“気づき”は得られません。指導者はよく観察をし、選手も自分の体を客観視できるようになってほしいわけです。それがBCTの本質にもつながってきますし、ひいては走りにつながってくるのだと思うんです。
僕もこの3年間、いろんなところで指導をさせていただいて、試行錯誤をしてきました。キューイングのコツもわかってきましたし、以前よりも意識のさせ方がわかった気がします。BCTの種目そのものが変わったわけではありませんが、選手に合わせた声のかけ方ができるようになったと思います。できればメニューの紹介だけでは伝わらない、そんな本質的な部分を見ていただきたいですね。
今回は選手を対象にした講習会を収録していますので、中高生の選手が見ても十分理解できる内容になっています。でも、まずは先生たちに見てもらって、普段の指導に反映してほしいと思っています。実は講習会でも、選手に話をするようなフリをして、後ろで見ている先生たちに伝えたいことをしゃべってるんです。僕が選手たちと関われるのは、講習会のほんの数時間だけですが、先生たちはこれからも日々関わることになります。そうしたらやっぱり選手を変えるためには先生が変わらなくちゃいけない。そのために講習会とかこういうDVDで、うまく僕を利用してもらえれば嬉しいですね。先生たちにはとにかくたくさんやらなきゃいけないことがありますから、ぜひいろんな人やモノの力を借りながら頑張ってほしいと思います。